(大学生)

「飲みすぎじゃないですか?」

 

グラスを口に持って行こうと、持ち上げようとした右手首に優しく上から、誰かの手がかかる。

 

ん?と視線を動かした瞬間、固まった。

 

 

ボーイに目配せしてテーブルに呼ぶと、さっさとオレンジジュースを二つ頼む。

「ご無沙汰しています。麻美ちゃん」

どうでもいい挨拶が隣で交わされる。中学の時の親友。昔は家にもたまに来ていたから山崎も知っている。

「一杯飲んだら、お嬢様、私と一緒に帰りますよ」

そういって、自分はさっさと水割りを頼み、勝手に私たちのテーブルに着くとほほえんだ。

 

「麻美ちゃんも送っていきますよ」

「小柴の車で来てますから」

 

帰りたくない。帰ったらどうなるかはっきりと分かってるもん。

取り上げられた目の前のアマレットソーダーの氷が溶ける。

 

チラッと麻美を見ると、気の毒そうな 顔。トイレに行く振りして逃げたらどうなるだろう・・・。そんなできっこない事を想像してみる。 私の知恵なんて所詮何の役にも立たない。

 

 

 

 

 

「あの。どうして分かったの?

 

このいたたまれない空気につい、バカな質問をしてしまう。

 

「GWだから毎夜、夜遊びをしている事ですか?それとも、未成年がお酒を飲みに来ているこの場所の事ですか?」

 

 

イヤミ・・・

 

「もういい」

 

麻美が小声でそっと耳打ちする。

「謝った方がいいんじゃないの?」

 

親友ゆえに、プライドもあって、麻美の前でなんて、言えない。そんな事。本当はこれから私の身に起こることも知っている中だけれど、この歳になってまだ、山崎の事を頭が上がらない人と思っている事を知られたくない。

 

「へいきよ」

囁き返す。

 

全然平気じゃないのに。どんどん泥沼にはまっているのも分かっているのに、つい強がりを言ってしまう。

 

「そっちはいけません」

今度は低い声。この声の時は本気でヤバイ。

 

つかんだアマレットソーダーを取り上げられ、

「どうぞ」とオレンジジュース。だから、これは飲みたくないのに。

 

「帰る。」

そういって席を立つ。

 

「麻美ちゃんももうよろしいですか?

 

ご丁寧に麻美に話しかける山崎。その態度がムカつく。

地味なスーツを着てても、その長身に似合ってて、目立つ。

広い肩幅。細い腰。悔しいけど、いい男。

悠然とした態度で会計を済ませ、「では、いきましょう」とクラブを3人で後にする。

目で追ってしまっていた自分にハッとする。

 

息苦しい車で、麻美を送ってあれから30分。部屋で延々とお説教。

大学生になって浮かれすぎてるだの、お酒は20歳からだの。門限をなくしたのは間違いだっただの。と、もう久々にうんざり。

 

「分かっているのですか?お嬢様?」

「分かってるけど、付き合いってものがあるのよ」

お酒はとっくに冷めているはずなのに、気が大きくなっていた所を見ると、まだもしかしたら、残っていたのかも。そんな一端の口答え。

 

「もう大学生でいらっしゃるので、お説教だけにしておこうと思っていたのですが、今夜はそうもいかなそうですね」

おもむろに、上着を脱ぐ山崎。

 

え?え?聞いてないよ。

それならそうと、始から言ってくれればいいのに。そしたら、私だって神妙にお説教だって、なんだって、大人しく聞いたのに。

 

「恨むんでしたら、ご自身の態度を恨んでください」

含みのある言い方。顔に出たかしら?私が思ってる事。

 

「さあ。」

 

「あ、まって、あの。山崎。・・・ごめんなさい・・・」

 

ニッコリ微笑んでくれた。ケド、

 

トントンと自身の膝を二回叩いた・・・。

 

 

ハイワカリマシタ。しぶしぶ膝の上。

 

「こんなハギレみたいな服、どうかと思いますが・・・」

とブツブツ言っている言葉より、この態勢がとてつもなく恥かしい。

一刻も早く終わって欲しくって、ぎゅっと目を瞑る。

でも、山崎は私の気持ちを知ってか、知らずか、まだお説教を続けてる。

 

私が聞いているかどうか、確認するためにワザと「ハイ」と返事をさせるような話し方。

 

「では、そろそろ参りましょうか」

全身に緊張が走る。

 

パチン。

 

思ったより痛くない。

 

と、思ったのは大間違い。続けざまの2発目、3発目が痛くって、すぐに体を動かしてしまう。

「どうしました?」

ワザとそんな事を聞いてくる。

 

降参なんてしないんだから。

そう思って、ぐっと堪えていたのに、おなじ所を何度も何度も叩かれているうちにとうとう堪えきれなくなってくる。

 

「手をどけてください。」

 

「山崎もう、堪忍して」

 

「聞こえているはずですね。その手をどけていただきましょう」

 

かばった右手で、痛いお尻の痛みををそっとなでて痛みを散らす。

そんなの気休めでしかないのに。

 

「わがままが通用するとお思いですか?」

 

それでもやめなかったら、右手はぐっと腰の所で抑えられてしまった」

 

「今夜はいろんな意味で十分に反省したいただきます」

 

「私に隠れて悪さをしようなんて思わないように、十分にお教えしましょう」

 

またまた再開。

 

もう十分知ってるし。

 

そんな事、今更教わりたくも無いのに。

 

痛くって、それでも止めてくれなくって、いつまでも続くその絶望感に押され泣き出していた。

 

「泣いても駄目です」

 

とどめを刺され、その日は本当にいくつお仕置きをもらったのだろう?

最後の方は何を考えてお仕置きを受けていたのか、覚えていない。

 

いつの間にか、という言葉が的確。そう、いつのまにか終わっていた。

たぶん最後の方は“ごめん。”“ごめんなさい。”“許して。”と連発していたようにも思う。

 

「余り泣いていると、明日、目が腫れて、遊びにいけませんよ。小百合にタオルを持ってこさせますので」

 

『誰のせいで、こんなに泣いたのよ!』

そう思ったけど、口には出さなかった。私にもいささかの学習能力はある。

 

それに、こんな痛いお尻で外出する訳が無いのに、本当にいい性格している。

 

 

「お嬢様、大人になっても、謝ることを忘れてはいけませんよ」

 

「ハイ」

 

「では、どうぞ。私の目を見てお願いします」

 

!!

 

「山崎。ごめんなさい」

 

子供のように頭をなでられ、ふっと優しく微笑むと山崎は部屋を出て行った。

 

残された私は何故かわけも分からず、オイオイと泣いた。

 

 

 

 

「まあまあ、お嬢様。さあ、さあ、横になって」

かいがいしく冷たいタオルを小百合に当ててもらって、ようやく気持ちも落ち着いてくる。

 

「もういいわ」

照れて小声で小百合をさげさせる。

 

「また後で参ります。」

 

そういって、部屋に独りになると、お尻の痛さだけがはっきりと主張してくる。他には何もない。ただひたすら、お尻が痛い。

 

お父様の出張のお供でGWは不在だって言ってたのに。

予定が変わったのなら、言ってよ。

 

まだ、3日もあるのに・・・。薔薇色期間なのにうるさい監視つき?

 

 

 

 

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