すぐに出てきたか・・・・
しかも泣いて?
「ゼーンー。」と両手を広げてくる。抱いて欲しいのか?
両肩に手をかけて、目線が合うようにしゃがむ。
「ルカにちゃんと“ごめんなさい”言ったのか?」
「う、うん。」
嘘つけ。
「本当の事言わない子はゼンは許さないよ。」
「・・・。まだ、言ってないかも。」
「もう一度行ってきなさい。」
ゆっくりと言い聞かせる。
「だってね。入ったらね。カリンの事をね。ルカがね。よしよしって、してて。」
「スミレもね。ゼンによしよしってして欲しかったのに、ゼンはスミレの事嫌いなの?」
「スミレにはまだやらなきゃいけない事あるでしょ。」
「先にだっこして〜」
強引に抱きつこうとしてくる。
「駄目。」
「やーだー。ヤダヤダヤダ。」
正にこういうのを地団駄を踏むって言うんだな。ヤレヤレ。
半ば強引に回れ右をさせ、背中を押してやる。
後ろに立つゼンに向かって、振り返って見上げたその大きな目に涙が溢れてる。
「ルカにちゃんと、言ってくるまで、ゼンは許さないよ。」
最後の駄目押し。
「一緒に行ってくれないの?」
可愛い心細そうな声を出すスミレ。
「一人で行ってきなさい。」
何度振り返っても駄目だ。腕を組んだまま、怒った顔を続ける。
根競べか、まったく。でも一緒に部屋に入るつもりは無い。
「スミレ、そうしてそこにいるだけなら、ゼンは帰るよ。」
「やっ。スミレも一緒に帰る。」
「そうじゃないでしょ。スミレは中に入ってルカに謝ってきなさい。」
スネながらもようやく部屋に入ってく。
「返事は?」
後ろから声をかける。
「はい。」
振り返りもせずにちょっとやけ気味の口調で返事が返ってくる。
「ルカ?」
そっと部屋の中で声を出す。
「どうした?スミレ?」
片足にカリンを乗せたまルカが言う。
「ごめんなさい。」
「それを言いに来たの?」
「はい。」
「よし、いい子だ。こっちへおいで。」
そういって、片足にカリン、片足にスミレを乗せて、ルカはニッコリ笑った。
「もう怒ってないの?」
「反省した子には、いつまでも怒ったりしないよ。」
よしよしと頭をなでられる。
「ゼンはしてくれなかったのに・・・」
えんえん。泣き出すスミレ。
「スミレちゃん、もうルカ怒ってないよ。ね?怒ってないよね?ルカ?」
「怒ってないけど、スミレが泣いてるのはそうじゃないみたいだから、ちょっと待ってて。」
そういって、ハテナが頭に浮かぶカリンをおいて戸口に向かう。
「そら、大好きなゼンがお迎えだ。」
「だって、ゼン・・・スミレの事・・怒った・・・ままだもん。」
えーん。
「おいで。」
そういって、今度は何故かゼンの方からスミレを抱っこしてくれた。
さっきまではあんなにねだっても抱きしめてくれなかったのに。
「あああああああーーーん。」
ことさら大きな声で泣いても、ゼンは笑顔のままだった。
いつもならすぐ泣き止みなさいっていうのに。
どうして?
さっきまで怒ってたのに。
さっきまで怖かったのに。
いつの間にか優しいいつもの、大好きなゼンの顔になってる。
大好きな。一番好きな。その笑顔に。
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