「カリンの実がなってるな。取りに行くか?」
そうルカが言ってくれたのは先週のこと。今日のお出かけを待ちに待っていたのに、
天気は雨。
カリン木は、雲の下にしか生えていない。植物は神様が上からお水をあげるから。
「カリン?」
来週にしよう。そういったら拗ねて部屋に閉じこもってしまった。
しばらくしたら出てくるかと思ったが、一向に気配が無い。
流石にあの楽しみのしようだとちょっと可愛そうになって、きっかけくらいは作ってやるかと、部屋を覗いてみると、
いない・・・。
まさか、と思うが、念のため。
雨の日は飛ぶのが難しい。上から落ちてくる水滴の重さ次第では、オトナの天使でさえ思う方向に進むのはやっかいだ。
「カリン?」
「カリン?」
呼びながら、捜し歩く。
これだけ館の中を探してもいないとなると。
まさかと思うが、思い当たる所は全部探した。
グズグズしていられないと、急いで下に向かおうとすると、
雲のふちにしゃがんでるカリンを見つける。
一気に気が抜ける。
「こんなに心配させて」
怒鳴って転がり落ちてはいけないと思い、ぐっと気持ちを抑えて声を出す。
「ル、ルカ?」
「ちょっと上から覗いたら、帰るつもりだったの。」
たしかにカリンの慎重さであれば、雨の中一人で木を見に行くことはしないかもしれない。
「心配した」
もう一度言うと、カリンは泣き出した。
「だって、だって、カリン楽しみにしてたのに、だって、神様が雨降らせた」
「雨は自然にとって必要な物だ。それがカリンが晴れて欲しいと思ったとしても降る事がある。神様だけが決める事だ。それなにに、神様のことを非難するなんて、いけない子だ」
「だって、約束してたもん」
「帰るぞ」
「カリンの木は太陽が好きなのに」
そういって、グズグズ言ってるだけのカリンの手を引いて歩く。
「ルカ。ルカ怒ってる?」
一番気にしていたことだろう。しばらく歩いてから聞いてきた。
ずっと歩きながら考えていたのか?
「怒ってる」
「どうしてルカが怒ってるか自分で考えなさい」
いささか、突き放しているようだが、本気で心配してた俺は今、カリンが見つかってほっとするあまり、つい優しく抱き上げてしまいそうになる。
気持ちを抑えるだけで精一杯だ。
「ルカ。るかぁぁ」
「怒ったらもう一緒に行ってくれない?」
子供だ。まだ木を見に行けるかどうかを心配してるのか。
この俺がどれ程心配したかも知らずに。
「カリン。よーく聞きなさい」
「ハイ」
その場で立ち止まり、カリンの目線までしゃがむ。
「危ない事をしたら、ルカは酷く心が痛む。そして、今日のカリンの行動はまさに俺の心がぎゅーっと小さくなるような感じだった」
「わかるか?」
「ちょっとわかる」
「ルカの事悲しませたくなかったらこういう事はしないでおくれ。いいね?」
「はい」
わかってるのか?本当に?
「悪い事したんだぞ。カリンは」
ふぇ。
「ごめんなさい」
「もうしないな?」
「しない」
「ルカ」
胸に飛び込んでくる。ひっぺがそうにも、服をぎゅっと掴んで放さない。
「わかったから」
そいういってカリンを抱き上げる。
「悪い子には帰ったらお仕置きだ。反省したいい子とだけ、来週カリンの実を見に行く」
「カリンもう反省したいい子だよ」
思わず笑いそうになる。
「わかった」
「やーん。ルカお仕置きやだ」
「『わかった』っていったのに」
「悪い事した分のお仕置きは絶対にする」
「反省した子になら、お仕置きの意味がわかるだろ」
そういって、泣き喚くカリンにキッチリお仕置きした。
翌週、セシルの鍋から、カリンジャムを煮る、いいにおいが立ちこめていた。
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