症状がでてると呼び出された。
いつもカリンを見ている訳ではないから、こうして自分の仕事の時間に呼び出されるなんてそうそうある事ではない。
普段は歌やら、道徳みたいなものやら、それぞれ教える講師の天使が時間ごとに子供天使達をみている。
「どうも。」
“草原の部屋”の主 セシルに断りを入れて部屋に入る。
いわゆる診療所であるここの主は薬草に精通しており、穏やかな天使だが、ルカ自身はめったに顔を出す事はない。
椅子に座って、赤くなった足を湯につけてるカリン。
「痒みは治まった頃かな?」
どちらに言うでもなく尋ねる。あくまで、穏やかな口調で。
気まずい空気を察してか、セシルが
「そろそろいいかしら?もう痒くないわね?」
とカリンに尋ねるが、うんともすんとも言わない。それどころかうなずきも、首をフルでもなく、ただひたすら足をつけてるお湯を見てる。
「カリン。足拭いたら私の部屋まで来なさい。」
そういって返事を待たずに出て行く。
小さな天使が、行ってはいけない危険な所へ入った場合、最初の境界線を越えた所で、一面に植わっているキノコのせいで痒みがでるようになっている。
痒い為、通常はそれ以上その場にはいられない。もしくは先には進まないが、万が一進むような事があってはいけないので、2重、3重に様々な症状が出るようになっている。
カリンの今回の症状は軽いものだし、セシルの薬草でもう、痒みも無いはずだ。それにしても、境界を少し進んだだけであるが、今回のカリンの仕業は到底見逃せる事ではない。本人も覚悟しているのか、小さくなっているのが見て取れる。
「カリンは一人で行ったのか?」
「はい。」
「行ってはいけないのは知ってるね?」
「・・・」
「まあ、いい。」
「今日のことは、ルカはとっても怒ってる。」
「兎にも角にも、川に勝手に行って怒られたのを忘れてしまう子には、厳しくお仕置きする必要があるな。」
何もいえないよな。そりゃ。しゅんとなるカリン。
ちょっとかわいそうなくらいにしょんぼりしてるが、許すつもりは無い。
あの川の事があって、協議をした結果、いくつかの仕掛けを作る事になったのだが。この前はスミレと一緒だったが、よりによっておとなしめなカリンが何故そんな所に一人で行ったのか?
「さあ、準備はいいかな。」
そういって、ひょいとカリンを膝の上に乗せる。
「ふぇ。」
まだ、何もして無いぞ。
「何か特別な理由があったのかな?」
一応は聞いてみる。
返事が無いのを確かめて、最初の一打を小さな白いお尻めがけて振り下ろす。
バチン 大きな音がして、それと同時にカリンの体がビクっと跳ねる。
それからは、一体いくつ叩いたのか、自分でも分からない。
してはいけないといわれた事をしないように、十分に教えるにはどうしたらいいんだ?
これ以上危険な真似させない為にはどうしたらいいんだ?
そう自問するが、答えなど見つからない。見つかるわけが無い。
泣きだした小さな天使はどうして、こうもイタズラばかりなのだろう。
スミレのお転婆に比べたら。と時折ゼンが困っている風なのに嬉しそうに話す有様を見て、やれやれ。なんて他人事のように思っていたが、今日のカリンは一体どうしてしまったんだ?
「うあーん。」
「あげたかったの〜。」
「うあーん。」
ん?あげたかった?何が?
「カリン。泣き止んでごらん。」
「ひっく。ひっく。」
「どうして、言ってはいけないといわれてる所に足を踏み入れたんだ?」
「ルカに、あげたかったの。」
「何を?」
「ルカにキラキラあげたかったの。」
「キラキラって?」
「星の雫が隠されてるから、だから、あそこは行ったら行けない所なんだって皆が言ってたの。・・・ヒクッ・・・。」
なんだそれは?
「だって、ルカには皆がプレゼンとあげるんでしょ?だから、カリンもあげたかったの。」
「ああ、誕生日ね。カリンがいい子なのが一番の贈り物だよ。」
「やだー。ちがうもん。そんなんじゃないんだもん。」
ああ、泣き虫に火をつけてしまったか。本心なんだけどな。
「で、そのキラキラは何になるんだ?」
「秘密。」
「・・・」
「誰かが持ってるの見せてもらったのかな?」
「ううん。」
子供の噂話か。まったく。
「カリンよーく聞きなさい。あそこには何も隠されてないし、ただ単純に危険だから行っては行けないんだ。」
「いいつけ守らないで勝手に入ったら、ルカは悲しいよ。」
「や。ルカ泣かないで。」
泣きはしないが・・・。
そっと顔に手をやるカリン。ああ、なんだかんだいって俺もイチコロなのかもしれない。もし、カリンが危険な目にあったらと思ったからこそ、今日こんなに悲しい気分になりながら、憤っていたのか。
自分の事をふと冷静に見ておかしくなる。ゼンの事、笑ってられないな。
「さて」
「お仕置きを続けようかな。」
「もう。したのに?」
「あれは、悪い事した分。」
「したよ。反省したよ。」
「そう。反省してから始めてお仕置きに意味がでてくる。」
ふたたびカリンを抱えると、パチンと1つ叩いた。
たった一つで号泣したカリンのパンツをあげて、
そっと抱えると、頭をなでてやる。
これ以上は今日の俺には無理だな。
「よしよし。ルカに何かしようと思ってくれた事、すごく嬉しかったよ。」
そういった一言で、カリンは益々泣き出した。お仕置きしてる時よりも烈しく。
「カリンの優しさが一番の宝物だ。」
カリンがこれから、どれほと、大きくなったら、言葉が贈り物だという事が理解できるようになるのだろう。
「ルカ、お誕生日に何が欲しい?」そう下から見上げて聞かれたときに、カリンでも簡単に手に入れられる物を言っておけば良かった。
俺もまだまだだな。
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