「千絵ちゃん、来たよ。」

「そうですか。」

「正直まだ迷っているんですよね。お仕置きだなんて。しかも赤の他人の妹さんにだし。」

「責任転換か?」

「いや。そういうわけじゃないですけど。」

 

「大丈夫。分かっているよ。きっと。」

「そうですか?」

 

「タバコが吸いたい気分ですよ。」

「まさかお前?」

「わ。たんま。」

「吸ってないですよ。吸って無い本当に。」

「それなら良いが。」

「拳握るのやめてもらえませんかね。」

「あ、ついくせで。」

「やめたほうが良いですよそのくせは。」思わず、苦笑い。

中川さんは俺が大学一年のときにちょっとの間だけやっていたバイト先にいた。硬派で格好良くって、仕事も出来て、当然モテル。そんな中川さんが大好きでよくつるんでいた。俺より2つ上だったから、一人っ子の俺にとっては時にはアニキのようだった。

 

忘れもしない。タバコをやめる事になったあの日のことは。将来の夢をいつも語っていた俺がちょっとの挫折で吸いたくも無いタバコに手を出したのを見て、「何やってるんだ!」の一言とともに、鉄拳が飛んできた。『でも』だなんて、愚痴ろうものならボコボコにされて、それは俺にとって初めて殴られたひどい一日だった。

それだけならまだしも、中川さんは言ったんだ。「お前の夢は必ずかなう。タバコはお前には必要ないって。」そういってもらえた事が信じられないくらいに自信になって今の俺がいる。もう一つ脅された事をしかし、こんな少女にまさか自分がすることになろうとは。

「もし、今後お前がタバコを吸っている所を見かけたら、お仕置きだからな。見たくも無いお前のケツを嫌っていうほど叩く。」俺の羞恥心を刺激する事が最も効果的だと思ったのか、本気だったのか。今をもっても聞けないでいる事だが、あの時の中川さんとの約束は破っていない。約束を破らなければ俺だって喜多見にお仕置きなんてしなくて済むのに、まあ、人それぞれって事なのかもしれない。

「どうした?」

「いや。なんでもないです。いつも気にしていただいてすみません。」

「今頃二人で俺たちの事悪口でも言ってるさ。」そういって中川さんはロックをオーダーした。やはり本人もちょっと佐緒里ちゃんの事を可愛そうだと思っているのかもしれない。

 

 

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