こんな事、人に言えない。
きっと皆私が叱られた位で泣いている泣き虫だと思っているに違いない。
お兄ちゃんに言うわけにもいかないし、そうだ、中川さんなら、社長も頭が上がらないみたいだし、それとなく、手を上げるのをやめてもらえないか言ってもらおう。
自分の計画が上手くいったら、もっと東京での生活に平和が訪れるとばかりに、色々シュミレーションをして、どんな風に言うかも台本のようにノートに書いてみたりして臨んだ。
色々考えたのに、中川さんはあっさりと
「悪い子にはお仕置きだよ。うちも。」
といって取るに足らないような台詞。そんな家が今時あるなんて。信じられない。
「なんなら、妹に聞いてもいいよ。今度 家においで。」
そういって分かれてから一ヶ月が過ぎていた。
中川
表札の前に立っている。言われた事を思い返しながら、半ば冗談なのかもと思いながら来た。メインは友達になれる同年代くらいの女の子と会えるということなんだから。そう思おうとしながら、こんなに優しい人が本当にお仕置きするのかしら?と心が別のことを考え出してしまう。
「ようこそ。遠かったよね?」
そういいながら、中川さんはいつものように優しい笑顔で迎えてくれた。
「不満があるようだったから、杉山も呼んでおいた。」
って、えー。そんなの聞いてないよ。キョロキョロしていると、
「あ、でも夕方遅くになるかもと言っていたけどね。」
といわれてちょっと安心。あんな閻魔サマ、休みの日にも会うなんて嫌だな。心が落ち着かないよ。
「あの。別に私は。」
「分かってるよ。冗談だ。」
「えええ。酷い!」
途端にほっとする。
「ポーカーフェースが出来ないね千絵ちゃんは。」
そういって笑いながら、ソファーを勧めてくれた。
「じゃあ、僕がいると話しにくいだろうから。」
「妹の佐緒里。」
それだけ行って出かけてしまった。
なんだ、中川さんもいるのかと思っていたら、なんだか変な事に。
「お兄ちゃんから聞いてるの?」
「私にはお仕置きされてるかどうか話せって。」
「あ。うん。」
「酷いよね。そんな事いうなんて。」
「でも、ちがうんでしょ?」
探るように聞いてみると
「されてるよ。」
といたってあっさりしたものだった。
驚いて顔を見ると、ちょっと向こうを向きながら、赤くなっていた。
「ごめんね。」
「謝ること無いのに。」
「だって。言いたくないよね。」
「まあね。でも、私はほら、知ってる人だし。」
「うん。」
「でもね、うちのお兄ちゃん、物凄く怖いんだ。だから、杉山さんとかも頭が上がらないと思うよ。」
「そうなの?」
「体育会系だから。」
「じゃあ、中川さんがやめろって言ったら、社長はお仕置きやめてくれるかな?」
「多分。でもやめろって言うかどうかが問題だと思う。」
私はその答えを聞いて、あきらめた。
「ようは、お仕置きされるようなことしなければいいんだもんね。」
半ば自分に言い聞かせるように。
「そうだけど・・・。」
そうだけど、それができれば苦労はしない。。。。多分二人同時に心の中で呟いた。
長い事話していたけれど、お互いのお仕置きの事とかには、やっぱり触れられない。
「メールしてもいい?」
「もちろん。」
面と向かって聞けないこともあるから。
でも、東京に友達ができた。しかも、不思議な共通点の友達が。
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