2学期の通知表は「早退1」で確かに叱られたけれど、涼先生が家庭教師になってから、間違いなく成績は上がった。

 ほとんどの場合、先生が来るのは嬉しいんだけど、時々空気が変わるときがあって、その時は本当に自分を恨む。でも、なぜか、粗相をしでかしてしまう。

8月は先生2週間お休み。でも、暫くあわないと、寂しいようなでも、開放的な気分もあって、だから、この先、先生がいなくなったら自由解放をたっぷり味わうだろうけど、それはそれで、怖いような気もする。

 

 携帯が鳴る。着信は涼先生を表示・・・。悪いことしてないのに、なんだか緊張。

「はい。」

「奈保子?」

「涼先生どうしたの?」

「ちゃんとやってるかどうか気になって。」

「なんだ。ちゃんとやってますよ。大丈夫。」

「そうか。じゃあ、月曜日。」

って、そうなんだよなー。2週間の休みなんてあっという間。しかも、休みに浮かれて勉強なんてするわけないし。

 

 

「お休みしていた間、勉強してた所みせてもらおうかな。」

「はい。」

そういって夏休みの宿題を見せる。

「英語は分かった。しかもこれは夏休みの宿題だよね?」

な、なにか・・・。

「はい。」

「他には?」

「他にって?」

「人の質問を繰り返すんじゃないよ。2週間これしかしなかったわけじゃないだろう?」

「えーっと。」

 

「奈保子?」

「は、はい。」

やっぱりやばかったか。やばいのは分かっていたんだけど。

「あ、あと、数学をやりました。」

「全然はかどってないみたいだけど?」

見せない方がよかったか。自分でもそう思ってたんだけど。

「ちゃんとやっていると電話で言ってたけど、まさかこれだけじゃないよね?」

意地悪。

 

「奈保子答えなさい。」

意地悪。

 

「膝の上に来なさい。」

「だって、2週間ぶりだよ。先生と会うの。」

「それがどう関係するんだ?」

「別に、意味は無いけど。」

スコシクライアマクシテ

「ふーん。」

「え?」

「お仕置きされるのが嫌なんだ。」

「そ、そりゃあ。」

「嫌なのに、やらなかったのは誰?」

「私です。」

「僕が一度だって、膝の上に来なさいといってから、お仕置きしなかったことはある?」

「な、無いです。」

「反抗したらした分だけ、さらにお仕置きが追加になるの、知らないんだっけ?」

「知ってます。」

 

「久しぶりだからね、もう一度だけ、言ってあげるよ。」

「膝の上に来なさい。」

 

ふえーん。怖い。もともと怖いんです。涼先生は。知ってたのに。知ってたのに。

一歩踏み出す。もう一歩。

お気に入りのプリーツのスカートが捲くられる。ピンクのショーツだって、下げられてしまう為に履いているわけじゃないのに。恥かしいよ。

「久しぶりのせいできっと痛いだろうね。」

パシーン パチン パチン

久しぶりのせいで痛いのでしょうか?いつも痛いような気もするのですが。でもそんな事、口が裂けても言えない。

「久しぶりでも、お行儀良くすることは覚えていたんだ。」

痛い。そう大声で叫びそうだったのに、先に言われてしまう。我慢。そう思ったのに、やっぱり痛くって、次第に「痛いよ。先生」そう口から漏れる。

久しぶりって繰り返すのは、奈保子がサボっていた間の開放感を取り上げて、本来の緊張感ある授業に戻そうとしているのかな?入ってきたときから、空気は一変していましたよ。涼先生。

「目を離すとすぐこれだ。」

「僕が見ていないときも自分でちゃんとしようと思ってもらわないと困るな。」

パチンパチン

「返事は?」

パチン パチン

「は、はい。」

パチン パチン

「聞こえない。」

「はい!」

「そう。約束だよ。」

パチン

「返事は?」

パチン

「はい!」パチン

 

悪夢だ。約束なんて、したくなかった。約束したら、破ったときどんなに怖いお仕置きが待っている事か。今までの経験で十分に想像できる。

パチン パチン パチン パチン

「ごめんなさいが聞こえないな。」

「ごめんなさい!」

パチン 

「ま、いいだろう。久しぶりだからね。でも僕の目はいつも鋭く光っているから忘れないように。」

 

パチーン 

「いったーい。」

 

やっと開放されたけど、久しぶりという言葉が頭の中をぐるぐる回っている。

 

「さ、授業始めようか?」

そうニッコリ微笑む姿、久しぶり。そして、はっきりと痛みと共に思い出しました。先生の本当の怖さを。

 

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