『あと、10分したら出かけよう』

そう思いながらズルズルと時間ばかりが過ぎていく。

 

迷って迷って、でもってやっぱり意気地がなくって、どうしても病院に

行く勇気がでないまま、診察時間も終わってしまった。

 

 

―診察時間終わっちゃったからしょうがない―

湿布を貼った足をかばいながら自分にいいわけをする。

 

朝、起きると、足を突くのがやっと。階段下りるのも、そろそろ。

よく転げ落ちなかったというくらい、

足にちょっと体重が乗るだけで、ビクーン ビクーンと痛みが走る。

涙が出そうに痛い。

 

これはやばい。という事で、母親に病院まで送ってもらう。

「終わったら家に電話して。後で迎えに来るから。」

看護婦さんに『一時間はかかります。』といわれて、

母親は洗濯物やらなんやら残ってるからといいながら帰っていった。

まあ、私の緊張した状態では普段のように

軽口も叩けなかったしいいか。

 

「斉藤さん。診察室にどうぞー。」

痛む足でそろそろと進む。

 

あまりにゆっくりだから、中にいる看護婦さんがドア開けて、手を貸してくれる。

 

「どうしました?」

って、見れば一目瞭然だと思うんですけど・・・。

 

「足。またひねっちゃったみたい。」

「みたいだね。」

先生、ちょっと苦笑。ま当然だけど。

「どれ、じゃあ、ちょっと見せて。」

「ベットに乗れるかな?」

そういって手を貸してくれる。

 

まあ、医者として当然なんだろうけど、サラっとした前髪が

まぶたにかかる(さま)にちょっとドキっとしてみたり。

私ってゲンキン。

 

「いつひねったの?」「ひねったというのが自覚症状だよね?」

あまり顔を近づけられると、ドキドキしちゃうんだけど。

 

「昨日、バスケの試合だったから。あ、無理な練習は先生に言われて

しなかったんだからね。試合中、ファールで押されて。それで転倒しちゃって。」

 

「わかった。わかった。怒ってないから興奮しないで。」

「あ。ハイ。」

ちょっと恥かしい。むきになって自分を忘れてた。

「試合には勝ったのかな?」

「うん。」

 

「よし、じゃあ、これは?」

「あ!駄目!」

「ちょっと痛かったか。うーん。」

「じゃあ、」

「ちょっとまって。タイム。」

 

マジで痛くって、ジンジンしてる。涙が自然と出てくる。

「先にレントゲンとるか。」

流石に先生今日は優しい。

「また、取った方がいい感じ?」

「かなり腫れてるしね。昨日は診察に来れないような時間に試合が終わったの?」

 

「う。うん。まあ。」

「ふーん。」

目を細めてチロってみられた。心の中を見透かされたような気分。

 

「ハイ。じゃあ、レントゲン先にとるから、ベットから降りるよ。」

そういってまた手を貸してくれる。

ちょっとやさしい?

 

痛い。痛い。といいながら、足を頑張って固定して4枚の写真を取り終わり、

もう一度診察室へ。

「もう一度、足見せてご覧。」

そういって、そっと足首を押したり、曲げたり。

ほとんど力入れてないと先生は言うけど、まじ、痛い。

「先生、できました。」

そういってもってきたレントゲン。

「骨は大丈夫だけど、相当派手にひねったねこりゃ。」

「うん。」

「湿布は2時間ごとに今日は取り替えなさい。」

「はい。」

「昨日来れたのに来なかったからだぞ。」

「え。」

にっこり微笑む先生の目。じっと視線を逸らさないその目に私の方が先に

負けた。

「ばれてた?」

「かまかけた。」

「えー!!!」

「ひどい?」

 

「い。いや。酷くはない。かも。」

 

「そう。あさっての月曜日にもう一度おいで。もうちょっと腫れが引いた状態

を見ておいたほうがいいからね。」

「はい。」

「かならずおいで。」

「じゃあ、いいよ。お大事に。」

「それから、よく頑張った。」

「え?何が?」

「試合勝ったんだろ?」

「あ。うん。ありがと、先生。」

 

ちょっと褒められたような錯覚。嬉しくって 顔がにやける。その上、

お仕置きもされなかったのでホーーーーっと胸を撫で下ろす。

よかった。先生にもちょっと優しくされたような気がしたし、

終わりよければ全てよし。ママに電話して、迎に来てもらう。

「今日は学校休んだ方がいいって。で、月曜日もう一度来てくださいって。」

「あら?そうなの?」

今日の学校休むのは嘘だけど、月曜は本当。

「うん。」

 

 

 

―月曜日−

後先考えず、目先の行動ばかりしている私の普段の行いを反省する日はすぐに

やってきた。

 

「こんにちは。」

保健所を出しながらちょっと緊張の面持ち。

気のせいだと思うのに、今日は自分に負は無いと思うのに。

本当は先生カッコイイし、来るの素直にうれしいはずなのに。

トラウマだ。なんか緊張しちゃう。

 

「斉藤さん。」

呼ばれて、今日はすぐに診察室に向かえる。

 

「どう?よくなった?」

「はい。湿布貼ってたら、もうだいぶ良いみたい。」

「4日目だからね。どら。」

そういって押されると、まだ鈍い痛みが。

「い、痛い。」

「ここも痛い?」

「いた。いたい。いたい。いたい」

 

医者じゃなかったら、わざとやってるといわんばかりの攻撃。

「腫れてたのもだいぶ引いてるし。大丈夫だね。」

「はい。」

半べそ。

 

だから痛いっつーのに。ぐいぐい押すんだもん。

「さ、じゃあ、膝においで。」

「え?なんで?」

「わかってるでしょ?」

「わかってない。」

「今日は何にも悪くないもん。」

私かなり必死。この展開って絶対にヤバイもん。

 

「今日じゃないでしょ。この間の金曜日のこと。

「え?」

「自分でわからないとは、これは厳しくする必要があるな。」

「ない。ない。先生ごめんなさい。」

「何が?」

「えっと。」

「何したのか分からずに『ごめんなさい』か?それはないだろう。」

苛めっこ。鬼っ子。白衣着て一見騙されそうになるけれど、絶対に

楽しんでる。

「・・・」

「いい?怪我したらすぐきなさい。」

「あ。」

「あ、じゃないでしょ。時間が経ったら余計症状が酷くなる事だって

あるんだから。」

「だって。叱られるかと思って。」

「自分でした事は自分で責任を取る。ましてや自分の体だぞ。」

「はい。」

「先生は怪我したからって怒ったりしないよ。患者さんが自分の体の事大切に

しなかったり、逃げたりした時だけだな。」

ごもっとも。しょんぼり。

「それと、学校サボった分な。」

「え?」

「聞こえてたぞ、会計待ってる間にお母さんに喋ってたの。」

「休んだ方がいいなんて一言も言わなかったぞ。」

「あ、ばれてた?」

XXXXX

「悪かったな地獄耳で。」

あ、ボソッとつい口がすべった。でも、本当地獄耳。よく聞いてるよ。

 

「さ、膝に載る理由がわかった所で始めるか。」

そういって、がちっと腰をつかまれ、逃げられない。

「やだー。足痛いよ。」

「お腹を診察台につけて。」

へ?とおもってると、床に立てひざついて、上半身は診察台に預ける感じになった。

四つんばいのような感じでもある。

「え?」

「膝の上に乗せて足に負担がかかるといけないからな。」

10発我慢だ。」

ピシー

「痛い。」

手を慌ててお尻にやる。痛い。これって手の痛みじゃないよね?

恐る恐る振り返ると、手には竹の物差し。想像してたものが目の前にあるけど、

やっぱり現実だと思いたくない。

「手を戻して、もう一度。」

「やだ。痛いもん。」

「嫌なら終わらないぞ。悪いのは誰だ?」

ぐ。それを言われると辛い。そろそろとさっきの態勢に戻る。

制服のスカートがかろうじて防護してくれるけど、そんなものでは

痛みを完全に弱める力はない。

ピシー

「わーん。」

「痛いな。自業自得だからな。我慢しろ。」

そういって平気で先生は次々と物差しを振り下ろす。

いくら足が痛いから、この態勢しかないからとはいえ、

かなりの辛いお仕置きなわけで。

なにも握り締めるものも無くって革張りの診察台の上で握りこぶしを作って堪える。

 

今日来たのが失敗だった。そんな予兆全然なかったから。

油断した。何度悔やんでも仕方ないのに、あまりに痛くって、歯軋りしてしまうほど。

 

「痛い。痛い。」

そう何度も言ったのに、本当に10発叩くまで許してくれなかった。

「先生が何に対して怒ってるのか、よく考えとけ。」

「いいな?」

「体は大切にするんだぞ。」

 

半ば放心状態だというのに、ちゃんと『ハイ』と返事ができるまで、

向かい合って椅子に座らされてお説教。

イケメンのくせにジジクサイ説教好きなんだよね。そこが玉に(きず)だと私は思うよ。

 

あー、痛い。足の痛みはなくなってきたのに、お尻の痛みが同じように

2,3日は後まで鈍い痛みとなって襲ってくるに違いない。

だいたい、手加減しろっていうの。本当にお仕置きとなると厳しい。

お仕置きだけじゃなくって、色んな事に厳しい人なのはわかってるんだけどね。

 

部活の顧問だったらたまらないね。部員いなくなっちゃうかもしれないし、

もしくは、物凄い強いチームになるか、二つに一つだね。

 

あああ、にしても痛い。今夜はお尻に氷枕だな

 

 

 

 

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