尚美

 

丸めた教科書でポカッと叩かれている頃は修ちゃんの本性をまだ知らなかった。笑うと八重歯が覗いて、皆からは影で修ちゃん呼ばわりされていた古文の教師。そして元担任。そして、今の彼氏。正義感が強くって、『皆で頑張ろうなって』乗せられて、我が2−Bはクラスも凄く良くまとまっていたし。学生生活はおかげで楽しかった。修ちゃんは結局、2年間担任で、他のクラス子からもいいな、担任修ちゃんだからってよく言われた。

 

短大卒業して、母校の事務局に就職した私には久しぶりに再会した修ちゃんが生徒でいたとき以上に、一層素敵に写った。

 自然と食事に行くような仲になっていた。年も5つ違いと、アニキって感じだったのが、いつしか、頼りになる彼氏になっていて、まあ、教師っていう職業がらかもしれないけれど、博識でいつもふーんって聞き入ってしまうような事を話してくれる。特に専門分野に関しては話も面白いし、意外にロマンチスト。

でも、悩みがひとつ。大好きな修ちゃんといつもベタベタしていたいのに、生徒の目があるからと、デートはいつも慎重にしなくっちゃいけなかったり、かと思うと、女子高生の黄色い声で修ちゃん呼ばわりを学校では耳にし、次第に私はイライラしていた。こんなに好きなのに、修ちゃんにはちゃんと伝わっているの?修ちゃんは当然生徒に対して熱血で、私は二の次。いつしか、勝手にそう思うようになって、一人でうじうじするようになっていた。

 

 自分でも『酷いな。』って目の前のチューリップの残骸を見て思うけど、切ってしまったものは取り返しがつかない。どうやったって、元に戻るわけなんてないんだから。修ちゃんと秋に一緒に球根から植えたチューリップ。ようやくつぼみが膨らみかけていた、そのチューリップ。無償に腹が立って、チョキンって、首の所に鋏を入れた。

 

かまって欲しかっただけ。なのに。修ちゃんは予想外に激怒してしまった。

 

初めて見るその怒り方に、私はようやく、オロオロし始めていた。

「苦しさを表せない無力なものに対してこんなことするなんて。」

「・・・」

「甘い顔をしていたのがいけなかったね。」

「・・・」

「尚美は『好きだよ。』という愛情だけではまっすぐに成長しないみたいだね。」

「そんな事。ない。よ。」

「修ちゃんにかまってもらいたかったから。」

 

「黙りなさい。やっていい事といけない事くらい、やる前にわかるだろう。」

「・・・」

「黙っていないで答えなさい。」

「・・・」

 

「分かった。言って分からないのなら、今から厳しくする。」

「ここにおいで。」

「膝の上にうつ伏せになりなさい。お尻を嫌というほど叩いて今からたっぷりと分からせる。」

「・・・」

「返事は?」

うそでしょ?ただ、膝の上をじーと凝視。それ以外に何ができるっていうの?嘘。嘘。

この展開が現実なんてとても信じられない。じっとまっすぐこちらを見る目。蛇に睨まれた蛙。

「何度も言わせると酷いよ。」

「いや。そんなの。無理。できない。」

一歩思わず下がると、

「来なさい。」

そういって、一度修ちゃんは椅子から立つと、私の背中を押して、そして、スカートを捲くった。

「修ちゃん」

お情け頂戴って時代劇で見たけれど、あんな気分。とてもまだ本当の事とは思えない。

パシーン。 パシーン。パシーン

 

やだやだ。でも痛みは本物。やだ。こんなの。 

パシーン。パシーン

「尚。悪かったと思っている?」

「思っている。思っているからもうやめて。」

「思っているならちゃんと態度で見せてごらん。」

態度ってなに?そう思うまもなく、

「パンツを下ろして叩くからね。じっと我慢するんだよ。暴れたりしたら、お仕置きは終わらないからね。」

うそー。修ちゃん。いつも、優しい修ちゃんは何処に行っちゃったの?

「聞こえたら「はい」と返事をしなさい。学校を卒業してから、まだこんな事いわれているなんて恥かしいぞ。」

この状況でいえたら、すごいよ。

パシーン

「痛い!」

「返事をしなさいといっただろ!」

「はい。」小さい声だったら、

パチーンともう一発。

「声が小さい。」

ううう。いつもやさしいのに。

「はい。」

さっきより大きな声。

「さ、パンツを下ろすよ。」

怖くって逆らえないけれど、これが自分に起こっている事じゃなかったらいいのに。そんな逃避願望で気をまぎらわす。

「直にお仕置きは痛いと思うよ。10発我慢できたら終わりにしよう。」

 

10発ね。

 

それくらいなら、なんて思ったのが甘かった。

パチーン パチーン と始まった。始まってすぐ、痛くって、

「痛い、修ちゃん。痛いよ。やめて。お願い。」

体をもがいて逃げようとしてしまう。

「そんな態度じゃいつまでも終わらないぞ。」

パチーン パチーン

そういって私のお願いは無視され、また、お仕置き再開。

だって、だって、酷いよ。痛いよ。

パチーン パチーン

もう10発過ぎたのに。どうしてやめてくれないの?

パチーン パチーン パチーン パチーン

「修ちゃん、もう限界。本当に。」

一生懸命我慢したけれど、流石に痛い。

「悪い事したら『ごめんなさい』だろう」パーン

うわーん痛い。

とりあえずオウムの様に言われた言葉を繰り返す。

「ごめんなさい。」パーン

「言いたい事があるならちゃんといいなさい。」パーン

「ごめんなさい。」パーン

「返事は『ハイ』だろ」パーン

「はい」パーン

うわーん。厳しすぎるよ。

「もう。本当に限界。」「限界だよー。」 パシーン。

 

「よし。そこに座りなさい。」

ようやく膝から下ろされた。そっと、パンツを上げる。お尻がジンジン腫れているよ。

座りなさいって言われても、痛いんだけど・・・。

「今後はこの方針でいくからね。」

「この方針って?」

思わず顔を見上げたら、目がバッチリ合ってしまった。慌てて目をそらす。

まるで昔、授業中に当てられないように下を向いたかのようなすばやさ。

「聞き分けの無い、我侭さんを叱るときはお尻にお仕置き。」

顎をもって上に顔を上げさせられる。

「言われた事してないときも。」

「いいね?」

 

「はい」

手を離してもらえたけれど、怖さはまだ続く。

私に『はい』以外の言葉が残されていただろうか?

「僕の目は節穴じゃないからね。」

「はい」

今日何度目の「はい」なんだろう?

 

いつも笑っていた修ちゃん。もうこれからは悪い事したら、こんな厳しいお仕置きが待っているの?自分のしでかした事とはいえ、平和だった日々に戻りたい。

「もうしないから。もうお仕置きしないって言って。」

「そんな反省もできない事いうのなら、もう一度膝に乗せなきゃいけないかい?」

いつもの八重歯。

恐ろしくって、ブルブルと首を振る。

「なんでもないから。」

あわてて、お尻を隠した。

<戻る>

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送