お兄ちゃんなんてうるさいばっかり。たまにはいいじゃん。

なによ、いつもいつも。

 

「全然悪かったとは思ってないようだな」

 

「私だってもう大人なんだから、ハウル探しにちょっと外泊ぐらいするんだから」

 

「なに探しだ?」

 

「ハ・ウ・ル」

 

「ハウルじゃなくて、お前が気づくべきなのは“青い鳥だな。ちゃんと読んどけ」

 

ボジョレー解禁で外で飲みまくってた。

川手がやってきて「今日はお帰り下さい」って懇願するから渋々帰って来てあげたって言うのに、叱られるんじゃ割に合わない。

 

「心配かけないというのが今年の抱負だったんじゃないか?」

 

「古い話し持ち出されても覚えてない」

 

 

「覚えてない?」

「ほー」

薄目になって、眼光鋭く睨まれた。

「今日は随分と強気なようだ」

 

「あ。覚えてないっていうのは、言葉のあやかな。覚えてるよ。うん。だから・・・」

酔いがイッキに冷めてきた

 

「心の中で思ってる事は態度や、言葉にでるもんだよなあ、梨緒?」

 

「そんな事は無いと・・・思う・・・」

頭もすっきり。自分の置かれている状況のまずさを漸く認識・・・。

 

「忘れっぽいようだから、忘れないようによーくよーく教えておこう」

 

「ちゃんと、覚えてられるから大丈夫。じゃあ、私もう 寝よっかナ」

 

「いい度胸してるな」

 

体が硬直しました。調子に乗ってた自分をようやく後悔。

 

「お、怒ってる?」

 

 

「怒ってないと思ってたのか?」

顔がマジなんですけど。ど、どうしよう。

 

「あー、えーと」

 

「なんだ?」

 

「なんでもない」

 

「はっきり言え」

 

「なんでもないんだけど、そんなに怒ってないと思ってた」

 

「3日も無断で外泊。酒を浴びるように飲み、一向に帰ってくる様子の無い妹の態度を黙ってろというのなら、そうしよう」

 

「やだ。突き放したりしないでよー」

 

「勝手にしろと言ってるだけだ」

 

「やあだ。ごめんなさいー」

「ねえ。ごめんなさい」

 

「お兄ちゃん」

おもわず、両手にしがみついてごめんする。

 

「今回は、俺がいないのを見計らっての行動だったんだよな?」

私のしがみついた手を解いて、じっと目を合わせてくる。

「ち、違う」

怖くって思わず視線をそらす

 

「違わない。嘘をつくんじゃない」

ぐいって顔をもどされる。うわーん。怖いよ。

 

「やあだ。ごめんなさいするから」

下を向いて、お兄ちゃんの胸元に向かって喋りかける。

 

「ごめんなさいするっていうのはどういう事だ?」

 

「反省してる。悪い事してた」

 

「黙ってお仕置きを受けるって事か?覚悟ができてるのなら、望みどおりたっぷりお仕置きして反省してもらおう」

 

『黙って』とは誰も言ってないんだけど・・・。言葉をさりげなく追加して追い詰めるのはいつもの事だけど。しかも、『たっぷり』って言ったよこの人。ひぇー。まずい。

 

「お仕置きは久しぶりか」

 

「最近はいい子だったから♪」

 

「調子に乗るんじゃない」

 

げ。一喝された。雷落とされるの嫌い。本当に怖い。

 

「あー。ちょっとまって」

 

パンツを下ろされて思わず動揺する。

でも、般若はちっとも待ってくれなかった。痛い!

 

「やだー。まだ心の準備ができてなかいのにぃー」

 

「そんなもん必要ない」

 

「お前の都合を聞いてお仕置きしてるわけなじゃない」

 

そいうだけどさ・・・。

「痛い!やだ〜。ちょっと待って」

 

「待てない」

お兄ちゃんはバシバシとお仕置きしてくる。勝手に始めるなんて、嫌なのに。

 

「バカ」

 

「何もかも思い通りになると思ったら大間違いだ。その失言を含め、たっぷりと後悔させてやる」

 

「やあああ。撤回するから。やだ。痛いよ。やだやだやだ。たんま。やだーー」

 

「おにー」

 

「鬼で結構。反省しないうちは膝から下ろさないからな」

 

「反省したもん」

 

「・・・」

 

「してるのにー。ごめんなさいするから」

 

「駄目」

 

「やだ。痛いよ。終わりにしてよ。お尻壊れちゃうよ」

 

「駄目」

 

「けちぃー」

 

「そんな事いってるうちは終わらない」

 

無理やり膝から降りようともがいたら

「手だけじゃ飽き足らないようなら、そういえばいい」

 

ピタっと手を止めて、恐ろしく低くひびく声で冷静に呟く般若声

 

「どうする?」

 

「ご、ごめんなさい。もうしません。ちゃんと反省する」

もう、身動き一つしないと心に誓った。瞬間で空気も私も冷凍にする恐ろしいさ。あー、バカバカ私。お兄ちゃん本気で怒ってるのに調子にのったままだった。

「もうしない」

 

もう一度つぶやく。

 

「よし。じゃあ、ちゃんとお仕置き受けなさい」

 

ゲゲ。始まりの宣言?

 

「やぁー。痛い。さっきのより痛いよー」

「無理。むりむりむり」

 

「ごめんなさい。もう無断では外泊しない」

「お酒も飲まないから」

 

「最初からちゃんと謝ってればこんなに厳しくしないんだぞ」

 

 

手を止めて優しい言葉かけてよー。

 

「反省したから」

情に訴えてみる

 

「心配した」

 

「ごめんなさいー。痛いよー」

 

「痛いのは、もう少ししとく」

げ。。。。終わりにしてくれるんじゃないの?

 

その一言の後、一体どれくらいギャンギャン騒いだか分からない。

お尻の痛さと、なんかもがいたのとで偉く疲労して、ようやく許された。

 

「ちゃんと反省しとけ」

 

そいういって、でもギューット抱きしめてくれた。

「心配かけるのも大概にしてくれ。寿命がちじまる」

 

やさしく頭をなでてくれて、涙を拭いてくれた。

「な、泣いてないからね」

 

強がる私の頭をもう一度、子供をあやすみたいになでてくれた。

 

包まれる安心はこんなに近くにあった。

自分の居場所はココにあった。

 

 

 

 

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