原因は誰のせい?
あんなに厳しいお仕置きの後、時間までは勉強するからといって、授業も結局やった。あの人普通の神経じゃないよ。鬼だよ。鬼。
ちょっとはかわいそだったな。とかっていう気持ちになったりしない訳?
家に帰ってから、ベットにうつ伏せになって、ジンジンするお尻にタオルを乗せながら、痛みが和らぐのをとじーと耐えて待っていると、タバコがバレタあの瞬間の恐ろしい光景から、お仕置きされるまでが次々と思い出され、痛さと悔しさみたいなものがこみ上げてきて自分がかわいそうになる。誓ったけれど、ちょっとタバコに関しては自信ない。
ある意味先生が怖いから、それから逃げたくって吸っているというのもあるから・・・。
しばらくは我慢していた。ひりひり痛むお尻の事を考えると、見つからずに吸えばいいとはいえ、ちょっと勇気がいる。そのうえ、ちょくちょく、吸っていないかチェックされていたからなんとなく我慢できた。
2週間経つと、あいつは「もし、まだ吸っているなら、止めるまで毎朝家に来てお仕置きだからな。」と冗談とも本気ともつかない発言をして、その時は吸っていなかったら、引きつりながらも、「吸ってないです。」て答えたんだけれど、どういう発想しているんだろう。結構するどいから、私の意志が弱くなってくる頃に決まってそういう脅しをかけて来る。
そんなこんなで、不満そはあったものの、しばらくの間、禁煙生活は順調に進んでいった。
お仕置きさえ無ければ、なんて思って、掛け合ったこともあった。
「先生が怖すぎるから小テストとか、実力が発揮できないことだってあるんです。緊張しして忘れちゃうことだってあるし。だからお仕置きは止めてください。」って言ったときも、
「実力が無い奴が何を言っても取り合わない。だいたい、お仕置きされることに怯えるようじゃあ、まだまだ、お仕置きが必要だって言うことだ。」
とか何とかいっちゃって、一向に取り合ってくれない。
口じゃ、悔しいけれど勝てないし、ましてや、腕力も。一体どうしたら、認めてもらえるんだろう。そうこうしながらも、仁先生はなんだかんだいって、私の成績を上げていった。反発こそはすれど、あんな教え方じゃあ、成績も少しは上がるってものだよ。
そして、今日はこの紙っきれを見せる日。『通知表』と書いてあるその左側には、主に「3」ちらっと「4」が英語と古文に見えて、しかし、あってはいけない「2」が燦然と物理の横に・・・。テスト返されたときにたんまりお説教されて、それはそれはブルーだったけれど、もしかして、今度はお仕置きなんて事になったら・・・。嫌だよー。お腹痛い事にしてとりあえず、先延ばしにしたい。ああ。どうしよう。
トボトボと歩いたはずなのに、いつの間にか仁先生の家の前に来ていた。遅刻厳禁だからぐずぐずしている訳けにもいかず、そうこうしているうちに、通知表を見る先生の横に、いつ宣告されるのかとビクビクしながら座る私がいる。
「さてと」
さてとっていったよー。ついに来た。
「自分ではこの成績どう思う。」
「え?」
「・・・」
「どんな思いで持ってきたのか、僕にだってわかるよ。」
「もうテストが返ってきた時点で成績が良いのも悪いのもわかっているわけだからね。」
「ちゃんと通知表を自分で持ってきたんだ。別にお小言を言うつもりはないよ。」
え?もしかして、許されるの?
「そんなうれしそうな顔をされると困るな。」
そういってちょっと笑った後、でもすぐに真面目な表情になって、
「成績の事はいいだろう。来学期真面目に取り組んだらいい。」といってくれた。
「はい。」超ホッとした。いいところあるんじゃん。
でも甘かった。
「指に残り香移ってる。」
「え?」
「吸っただろ?」
ぎっくーーーー。あまりの恐怖で心臓がこのまま凍りつくんじゃないかと思ったけれど、実際はドキドキと音が先生にまで聞こえるのではないかという位、脈打つのがはっきりとわかる。
「怖かったの。」
「約束破ったらどうなるか分かっていても?」
「その上、隠し事が出来た訳だ。」
「ごめんなさい。」
そう小さい声で言うしか無かった。
「出しなさい。」そういわれて、2本だけ吸った残りの箱をゆっくりと差し出す。ゴミ箱に落ちる音がして、そして、私は膝の上に乗せられた。途中の公園でいてもたってもいられなくて買ったばかりのタバコを空けて、久しぶりでちょっとクラってなりながら、一服してから来たのだった。
「この間のお仕置きでは効き目が無かったか。」
「そんな事ないです。」
必死で否定。
自分がどんなに厳しいお仕置きを受ける事になるのか、想像もできない。
やってはいけない事をしてしまった後悔で悲しくなる。
パチーン パシーン
いつものように、お仕置きが始まった。
パチン パチン パチン
しかし、いつもなら、小言がはさまれたりするのに、今日は一言も声をかけてくれない。
パチーン パチーン パチン
今日はさすがに自分が悪かったんだからと、自分でも我慢しようとしたけれど、でも、痛さと何も言ってもらえないのとで、悲しくなったのか、涙がいったんこぼれると、もう、わーわー泣き出してしまって、ひたすら「ごめんなさい。」と何度も何度も繰り返していた。
お尻が燃えるようになって、一体いくつ叩かれたのかも分からないけれど、限界をとうに超えているのではないかという長い間叩かれて、ようやく手が止まったと思ったら、
「この間の物差しで叩いた位では、効き目が無いようだから、さてどうするかな。」
とさらなるお仕置きが厳しくなる様子。
「ごめんなさい。本当に心から反省しています。」
必死でごめんなさいと繰り返す。そのときは本当に悪かったって思っていたから。
自分でも、ちょっと意思が弱すぎたって思っていたし。
「二度と吸わないと誓ったのに、悲しいよ。」
悲しいよなんていわれると、こっちも悲しくなってしまい、どんどん、涙がこぼれて言葉にならない。
「禁煙するね?」
「します。」
「じゃあ、この間と同じように、ソファーに手をつきなさい。」
・ ・・やっぱり。
「いいかい、約束が守れなかった事。よくよく反省しなさい。今後、バレなければいいという姑息な行動は許さないからな。」
そうして例の定規で12発叩かれた。前回とは違って自分で手で隠したりしなかった。
前回とは違って、がんばって自分で膝に力を入れて耐えた。耐えたといっても膝ががくがくしてしまって、結局、上半身をソファーにもたれるようにして、四つんばいのような感じの格好に最後はなってしまっていたけれど。一度味わった痛みの恐怖のせいなのか、本当に前回より強く打っているからなのかは分からないけれど、とにかく、痛かった。
ようやくお仕置きが終わると、
「世話がやけるお嬢さんだ。」と言って、先生は暖かい紅茶を入れてくれたけれど、涙が止まらなくって、ぬるいお茶になるまで飲む事ができなかった。
もう本当に、本当に吸いません。 だって、その後、またお習字で『禁煙』って何度も書き直しさせられながら書かされた。痛いお尻での正座は本当に辛い。
「3度目はこんなもんじゃ済まさないからな。」
紅茶を入れてくれた優しさもあるくせに、いつもは怖い顔ばかりの先生。本当はやっぱり、鬼なのかな。
禁煙を本気で誓った。そして、先生の言うように、少し強くなるように努力する事も誓った。
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