決意

 

「もしもし、仁?話があるの。」

勇気を出して電話したというのに、そこから先がなかなか、言葉が出て来ない。

「有紗?」

「いいよ。じゃあ、明日うちにおいで。」

そういって、結局話し出す事が出来なかった私に、家に来るようにというと、仁は電話を切ってしまった。

メールにすればよかったかな?でも今更だしな。

ふー。携帯もって、一時間。やっとかけたのに。覚悟は決めなきゃ。仕方ないんだもん。そう思うけれど、やっぱり、挫けそうになってしまう。

 

 

ピンポーンと玄関を鳴らす。ガチャっとドアを開けてくれたのは、いつもの仁。

いつも見慣れた部屋に入る。でも、いつに無く緊張。

 

「あのね。」椅子に座らずにいきなり言ってみる。きっかけを逃したら、いえなくなってしまうから。

「悪い事しちゃったな。って。だから。正直に言おうと思ったの。」

仁はリビングの椅子に座って、まっすぐ私を見る。うなずきも、相槌も何もしてくれなく、黙ってじっとみているだけ。

「仁の車、傷つけたの。知らない振りしてたけど。実は自転車が倒れて、ガリって。」

「そう。」

「ごめんね。」

「いいよ。有紗に傷が無かったんだ。」

「しかも、自分で言いに来たんだろ?」

「うん。」

だって、仁、車すごく大切にしてるのに。どうして怒らないの?

 

「お仕置き、するよね?」

「まあ、最初のときは知らん振りをしてごまかそうとしたのは、許しがたいけれど、それでも、やっと有紗が自分で言うようになったんだ。今日は大目に見てあげるよ。」

「え?」

「嫌なの?」

「ううううん。まさか。正直に言ったら叱らないの?」

「自分で悪かったってちゃんと思っているんだろう?自転車が倒れたのはわざとじゃないんだし。」

「うん。」

 

えー。仁って実は物分りがよくって、いささか拍子抜け。なーんだ。じゃあ、あんなに緊張する事なかったな。ふーーう。

 

「それから?」

「え?もうないよ。それだけだけど。」

 

「前期の講義、落としたのがあるだろう?」

「なんで知ってるの?」

「しかも、出欠足りなくって、体育おとしたんだよな?」

うぐ。

「だって。」

「だってじゃないだろう?」

「だって。」

だって、月曜1限なんてほとんど嫌がらせの時間に入っているんだもん。

「有紗!」

「はい!」

「ちゃんといいなさい。」

「だって。」

「いい加減にしないと本当に怒るよ。」

すでに怒っているくせに。

 

「机の引き出しに物差しが入っているから持っておいで。」

「いや。仁。ちゃんと言うから。」

「もう遅い。」

「さっさと取ってくる。」

恨めしげに見てもすずしい顔。いよいよまずいから、仕方ないな。

「はい。」

だって、物差しって、もしかして、もしかするよね?

「覚悟はいいね?」

ピシー

「ひい。」

痛いのと、隠しておこうと思ったことがずばり言い当てられて、どうしようもなく怖い。

「人の目は何処にあるか分からないね。」

ピシー。

「悪事千里を走るって言うことわざしっているだろう?」

ピシー

 

痛いよ。痛いよ。仁。ごめんなさい。

「ごめんなさい。」

ピシー

「折角ひとつは正直にいえたのにな。」

ピシー

「ちゃんと全部いうから。もうこれで全部だけど、これからも全部いうから。」

 

わーわー泣いてあまりの痛さにしゃがみこんでいた。

立ってるのなんて無理だよ。

「立ちなさい。」

「今すぐ立たないとまだ続けるよ。」

いやいや。

首を必死に振るけれど、とても一度しゃがみこんだら立つなんて無理。

「有紗。」

「僕は途中では絶対にやめないの、知ってるね?」

「言われた事がちゃんとわかるまで、そして、次からはちゃんとできるように気持ちが変わるまでは終わらないよ。」

「もうちゃんとするからー。」

「泣いても駄目。」

「仁。」

 

ぐいっと腕をつかまられ、後は何も言われずに、ただピシーっと叩かれる。

「ごめんなさい。」

「本当に。」

「仁。ごめんなさい。」

「ひーん。」

 

ピシーっと叩かれ続けて、想像していたのとは別の理由でお仕置きされて、ぬか喜びした上に、酷く厳しい。なんで今日は膝の上じゃないの?

ひいっ

「俺に隠し事をするなんて、百年早い。」

どうして?どうしてバレちゃってたの? しかも、いたーい! 

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